本作品は201586日の広島平和記念公園とその周辺の映像を中心としたオブジェクトを配置する「レプリカ」である。ここでの「レプリカ」とは公園の単なる「ミニチュア」ではない。それは86日(における調査員)の経験を受け手に再構成させ、マスメディアが作り出す「祈る人」や「原爆ドーム」といったイメージとは異なる世界を体感させるものである。

 使用する映像素材は201584日〜7日にかけて調査員12名が定点観測やインタビューを交えおこなった調査撮影である。撮影時間は夜明け前から深夜まで約80時間、撮影された場所は式典だけでなく公園一帯とその外縁に及ぶ。

 本作品は、86日に撮影された映像を用いて、それぞれの場面と音を複数のディスプレイに同時に映し出す<演奏>である。ディスプレイは積み重ねられたり、何かと共に置かれたり、また分散して設置される。各ディスプレイを見ようとする者は自分の身体を動かすことになる。「レプリカ」のディスプレイ群は一日を1時間程度に圧縮するものであるが、時間の経過による空間の色や音、人の変化を描き、映像は不意に現れたり消えたりする。それを見るものの動きや視線は調査員の身体をなぞらえ、あの日あの場所の「レプリカ」として立ち現れる。

 この空間は、あの日あの場所の全体性、調査員との関係性を表象し、その経験の環を受け手に広げる。ここには実際の平和記念公園にいる時のように、一望する中心は存在しない。本作品が目指すのは、訪れた人々が自分の身体で調査を追体験し、8月6日の平和記念公園を、広島という都市を、感じることである。